生きる為のひとつ

趣味で小説を書く者です。

未完の一作「無題1」

「いいかげんにしろよお前。早く小説書け」
椅子の上に胡座をかいて好きな作家先生の新刊小説を読んでいた僕にそう言ったのは、友人兼担当の藍川豊だ。
担当とは何の担当なのか、そこに疑問がいくだろう。
僕は坂見栄太郎と言う名前で、職業は一応「作家」をしている。
そして藍川が何故来たのか、どうやら今日は書かない僕を奮起させに来たらしい。
「書いてるって。これは勉強じゃん、勉強」
これは僕の決まり文句である。
藍川は頻繁に原稿を催促しに来る。
スローペースで書く作家だというのは藍川も承知だろうが、僕はそれを悠然と破るため、頻繁に来るのだ。
そしてその度に他の作家先生の小説を熱心に読んでいる所を発見される。
見られた時に咄嗟に出る言葉が「これは勉強だから」なのだ。
作家にとって他の作家先生の小説を読むのも一つの仕事、勉強だ。
「お前いつもいつも勉強勉強って言って伸ばすけど、今回はお前がネタ浮かんだからって言って俺に相談してきたんだろ?そのネタでとりあえずあらすじだけ書くって言って、もう1ヶ月経ってんだぞ?あの坂見が動いたって言うから職場でも話題になってたのに、もう1ヶ月も経てばみんな痺れ切らしてるぞ」
「んーごめん。今回は僕が悪い、でも何となくかけるかな〜と思ってたんだけど、突然スランプになって書けなくなった」
まあスランプと言っても、僕の場合、常にスランプなのだ。
「あ、これなら書けそう」と思っても、途中で絶対に行き詰まって書けなくなる。
これも日常茶飯事だ。
その度に担当の藍川は上司に「なんとしてでも書かせろ」ときつく言われる。
「とりあえず上がった所まで見せて」
藍川はため息をついて、原稿が上がった所までだけ見せるよう要求した。
「本当に少ししか書いてないけど」
「いい」
僕は一枚しか出来ていない原稿を渡した。
藍川は何も言わず受け取り、何も言わず読み始めた。
時折赤ペンを取り出し何かを書いているようだ。
五分くらいたっただろうか、やっと藍川が顔を上げた。
「どうだった?」
まず声を出したのは僕だった。
いくらボツにされる文でも意見は聞いておきたかった。
「悪くは無い。でもこれじゃ長編小説にするのには、ネタが弱すぎる。だから行き詰まるんだろ」
「ご最もです」
確かに長編にしようと書いたが、小説に含むネタが少ないのとインパクトも無い、だから行き詰まったというのは自分でも気付いていた。
「とりあえず、赤ペンで俺の意見は書いといたからチェックしといて」
「…はい」
「今回は無理そうだから、上にも言っとく」
そう言うと藍川は帰る用意をし始めた。
俺はとにかく落ち込むしかなかった。
藍川に悪い事したな、と心から思った。
友人と言えど今は仕事仲間でもあるため、早くいい原稿を出してやりたいとは思っているが、今の僕では無理なのだ。
最後に藍川はコートを着て「帰る」と言い、玄関へ向かっていった。
「藍川、ごめん」
今の僕は謝罪しか出てこない。
「あ、坂見。明日駅前のカフェに三時集合な」
「は?」
「ネタがないネタがないって言うなら、外でネタ探しでもすればいい。何かピンとくるものはあるだろ」
確かに僕は作家という名のニートなのだ。
滅多に外に出ないため、ネタも尽きる。
「俺も明日は休みだし、仕方ねえから付き合ってやるよ」
そう言い残して帰っていった。
僕はリビングに戻りコーヒーを淹れ、ため息をついた。
「はあ、外か。いつぶりだろ」
外に出る恐怖もあるが、すっぽかした時の藍川を想像するのも恐ろしい。
「早く寝よ…」
神様よ、明日を無くしてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

未完の一作でした。

未完のモノは山ほどあり、この先書くか書かないかは分からないものはどんどん載せていこうと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

@harukisn